こちらで 札幌山の手高校ラグビー部 を記述

 

生徒の弁当をつくる監督

 

 「あしたの弁当の仕込みはおわっているから、親子丼なんだけどね、帰って寝るだけだし、もう一杯飲んでかえろうかなあ」。

 

定 番の一つ、炒飯ポーックチャップ丼。大きさが分かるようにCDジャケットを一緒に撮って送って下さった。佐藤先生のちょっとした気遣いに思わずニヤっとしてしまった。とうか、なんだ、この弁当箱のというかタッパーのでかさは。「寮母さんが食べた後の弁当箱をあらってくれるんです」と喜ぶ佐藤先生。寮の朝晩の食事はきちんとバランスがとれているので、トレーニングで不足するエネルギーと筋肉の材料を補うのだそうだ。「昼は炭水化物とタンパク質」だという。

 「体罰より飯だよ飯。がははは」と佐藤幹夫さん(1961年生)が大笑いする。札幌の私立高校で、男女共学になったときから、ラグビー部を指導してきた体育教師だ。最初は、札幌市内でもまったく勝てない弱小チーム「退学させるまえに、最後のチャンスでその子僕にあずけてくださいと、おもしろいこばかりあつめていましたから」という。今は毎年花園、熊谷。全国大会の常連校になっている。

 

 ここ最近は毎週のように地方から来ているラグビー部のこたちが集まって監督の家で大量の飯を食っているという。かつての教え子、近所のお年寄りなんかが肉やら野菜やらをとどけてくる。調理師、飲食店の経営者などになった教え子は腕をふるい、女房子どもが帰省したといっては、監督の家にやってきて、掃除やら料理やらに励む若い衆もいるのだそうだ。「このあいだ、近所の優しいおじいちゃんがね、肉2キロ、しゃぶしゃぶしろって持ってきてくれたり、その前はね、唐揚げ4キロ。あっと言う間になくなるんだけどね。がははは」。おじいちゃんには孫がいないから、生徒達は雪かきに飛んで行くのだそうだ。「カツ丼ごちそうになりましたって喜んでかえってくるよ」と。

 

 「いや、去年さ、始めて栄養士の先生にちゃんと頼んで、生徒達に栄養指導をしてもらったんですよ。分かっていたことだけどやっぱり筋肉の材料を練習の前にいれてやなくちゃならいわけですよ。それが、例えば、肉屋や卵、あと、おにぎりとかに換算してね。そう、寮の生徒達は、朝晩はちゃんとバランスのとれたもの食べてるからいいんだけど、昼飯は買うことになるんですよ。すると、計算どおりに食べたら、一日1,000円越ちゃうんです」。

 すると一月、あっというまに、3、4万円無くなってしまうので、彼はお弁当を作って食べさせることになったという。米も教え子に「安くて旨いのを頼む」と10キロ単位。

 

 冷凍庫を新しく自宅のキッチンに置いたと笑う。実は、彼、国士舘大学でラグビーを始めたとき、仕送りが足りないと気づいた。監督に相談して学食で、朝ご飯と、二部の学生の晩ご飯、早朝と深夜の二度はたらいて、残り物で賄いして、学生生活を成り立たせていた。カツ丼を100人分つくるなんてことも当たり前にやっていたというのだ。

 

 「これが面白くなってしまってね、いつもは、親子丼だ、豚キムチ丼だって、カレーだって、ほら、ドンブリばっかりだけどさ、月曜から金曜迄のパターンがあるわけよ。だけどね、たまに、料理のレシピを勉強したり、生徒のリクエストがあると燃えてね、新しいのにチャレンジするんだ」と楽しそう。



 「いや、もともと体罰なんてしないよ、だけど、飯つくって食わせてたら、なんか生徒達って、伝わるっていうか、身体も出来て行くし、心もおちついていくんですよね。で、練習なんかもすごい真剣にやっているっていうか、僕のこと思いやってくれてるっていうのかな、思いが伝わっているのがわかるんですよ」という。

 

奥が佐藤幹夫さん。前列右はオールブラックスの選手、アーロン・クルーデンさん。左は東芝のキャプテン、マイケル・リーチさん。マイケルさんは山の手高校が最初に受け入れたニュージーランドからの留学生。今は全日本を牽引する選手となった。かれは自らのプロフィールで佐藤さんを「尊敬する人、佐藤幹夫監督。 良い人間の見本を見せてくれるし、いつも人を助ける努力をしている」と語っている。 校長ともコミュニケーションが良くとれているようだ。たとえば、ニュージーランドに姉妹校を作らせてもらった。ラグビー部は修学旅行を一般の生徒と別れてニュージーランドに行く。二年間毎月積み立てて、2週間の旅行の間、交流試合を重ね、世界一のラグビー王国でプロのコーチにレッスンを受ける。半年の短期留学制度も用意した。「いや、勉強出来なくても、良く喋る奴はあっという間に英語ペラペラさ。何より外国に友人がいるってのは、自分の国のこともよくわかるようになるし、生徒は成長してくれますよ」。

 

 「北海道はすれてないっていうか、もまれていないっていうか、試合でも緻密さが足りないんですよ。試合巧者にはなかなかなれない。でも、身体と素直さはしっかりつくってあるから、大学行ってから、結構伸びてるんです」という言葉通り、今年の国立競技場では早明戦でも、監督から、選手から、佐藤さんの教え子たちが大活躍だった。そして、ラグビーの指導者になった教え子達は、朝から生徒にパンや牛乳用意したり、栄養指導したり。明治大学の監督が朝練のまえに食事を用意しているところがテレビで流れた。

 

「おまえいいことやってんなあ」。

「いや先生のパクリっすよ」。

 毎年、花園から国立競技場迄、年末年始の日程をこなすので、お嬢さんから手紙とクリスマスプレゼントが届くのはそのあとだ。今年の早明戦は東京で働くお嬢さんご一緒だった。正月明け届いた手紙に「尊敬しています」と書いてあったと最高の笑顔だった。

 3年前から、近所のおじいちゃんと計らいで、生徒達とバンケイで開墾を始めて、毎年1アールずつ畑がふえたので、新鮮な野菜が手に入るとおおよろこび。停学中の生徒も、なんだか明るい顔で、汗を流して元気になるという。その上、育てる喜びを味わうのだと「野菜が、愛情かけると旨くなるんですよ。生徒がそれをしるんですよ」。