演出家:十川稔

 

2019年11月23日、24日、北海道二期会が札幌市教育文化会館で開催するオペラ「道化師」演出を担当する十川稔さんにお話を伺いました。

「札幌は住みたい街」

「この街、過ごしやすいですよね。北海道二期会では、若い時に演出助手としてお世話になりました。その時の演出家、私の恩師も老後は札幌に住みたいと仰っていましたよ。北海道二期会のソリストたちの個性も一人一人いいし、合唱がなんとも熱心で素晴らしい。今後は、日本各地にある二期会同士、そして東京の二期会ともどんどん交流して活動を豊かにして欲しいです。」

 

「歌い手のためのオペラ」

「パリアッチ(道化師)と云う作品は、歌い手のためのオペラです。歌手たちは、カニオ、トニオ、ネッダ、シルヴィオという19世紀末の旅役者を演じながら、劇中劇ではイタリアの古い芝居のキャラクターを演じることになります。それまでのオペラは「詩」を客席に向かって歌っていました。しかし、この頃になって芝居でもチェーホフとかが日常のリアルな人間を描き始めました。そういう影響を受けてオペラも写実主義に変わってゆくことになります。ヴェリズモオペラの誕生です。さらに19世紀の末には大衆に人気のあった偉大な歌手や女優がいて、その人たちに合わせて音楽を作り、お芝居を組み立てたのです。実際の演じ手の個性に合わせて当時の作曲家たちが作り込んだので、わかりやすく伝わりやすいものになっていたでしょう。私は、今回の作品で原作に忠実にドラマを作りたいと思っていますので、今回の公演の出演者は、21世紀の現在を生きながら、19世紀末の歌手と劇中劇の中のキャラクターの両方を描くことになります。登場人物のリアルな感情をオペラという形式の中でいかに描くか、難しいですけど出演者と一緒にやり抜いてみます。」

※イタリアでVerismo(ヴェリズモ)とは1880年代に小説に現れた芸術上の写実主義で、それがオペラにも適用された。「道化師」はその代表的な作品のひとつとされる。

 

プロフィール

十川稔(とがわみのる)
大阪大学文学部に学ぶ。1975 年 SCOT 入団、鈴木忠志演出のギリシャ悲劇、シェイクスピア等を演じ、ロス・オリンピッ ク芸術祭、ベネチア・ビエンナーレはじめ 20ヵ国 70 都市での海外公演に出演。海外の演出家や俳優との舞台も数多く、 鈴木忠志の演技メソッドを教える。帝劇、水戸芸術館等にも客演。1994 年オペラ初演出。新国立劇場、二期会等で栗 山昌良の助手を務めるとともに、バロックから現代まで多岐にわたるオペラを演出。クーラウ『ルル 魔法の笛』を 167 年 ぶりに蘇演(05)、米パーム・ビーチ・オペラ『蝶々夫人』(2007)、錦織健プロデュース『愛の妙薬』(2009)『セビリアの理髪師』(2012)『後宮からの逃走』(2015)、舞台芸術共同制作『椿姫』(2011)、千住明『滝の白糸』(2014)等の話題作を演出。 二期会オペラ研修所、東京藝術大学等で舞台演技を指導。